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山形地方裁判所 昭和40年(ヨ)69号 決定 1965年6月15日

申請人 ハッピーミシン製造株式会社

被申請人 日本労働組合総評議会全国金属労働組合ハッピーミシン支部

主文

一、(1) 被申請人は、別紙第二目録記載の建物のうち、食堂(添付図面赤斜線部分)、便所(添付図面黄斜線部分)及び手洗所(添付図面青斜線部分)を除くその余の建物につき、立入つたり、又はその組合員もしくはその他の第三者をして立入らせるなどして、申請人の占有を妨害してはならない。

(2) 被申請人は、右食堂につき、これを、申請人の許可なくして、福利厚生以外の目的に使用し又はその組合員もしくはその他の第三者をして、申請人の許可なくして、福利厚生以外の目的に使用させてはならず、福利厚生以外の目的をもつて中央食堂内に立入つているその組合員もしくはその他の第三者を退去させなければならない。

二、被申請人は、左記の者の左記の行為を、スクラムを組んで阻止するなど実力をもつて妨害し、又はその組合員もしくはその他の第三者をして実力をもつて妨害させてはならない。

(1)  申請人の指定する従業員(職員、職制及びハツピーミシン製造株式会社労働組合員その他従業を依頼された者)が別紙第一、第二目録記載の土地及び建物内に立入ること。

(2)  右従業員が右土地及び建物内において申請人の業務を行うこと。

(3)  右従業員又は申請人と商取引関係に立つ第三者が、右土地及び建物内に製造原料、資材部品を搬入し、あるいは右土地及び建物内から製品、資材部品の搬出をなすこと。

三、申請人のその余の申請を棄却する。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、当事者双方の求める裁判

申請人訴訟代理人は、

「一、被申請人は、別紙第一、第二目録記載の土地及び建物(以下、単に本件物件という。)に立入つたり、又はその組合員もしくはその他の第三者をして立入らせてはならず、又現に立入つている者を退去させなければならない。

二、被申請人は、本件物件外において、左記の行為を、実力をもつて妨害したり、又はその組合員もしくはその他の第三者をして実力をもつて妨害させてはならない。

(1)  申請人の指定する従業員(職員、職制、ハツピーミシン製造株式会社労働組合員並びにその他従業を依頼された者)が本件物件内に立入ること。

(2)  右従業員が本件物件内において申請人の業務を行うこと。

(3)  右従業員又は申請人と取引関係に立つ者が本件物件内に製造の原料、資材部品等を搬入し、又は本件物件内より製品等の搬出をなすこと。

三、申請人の委任する執行吏は、第一、第二項の趣旨を公示するため、及び第一、第二項の命令に違反する行為を排除するため適当な措置を講ずることができる。」旨の裁判を求め、被申請人訴訟代理人は、「申請人の申請を棄却する。」旨の裁判を求めた。

第二、疎明資料により一応認められる事実関係及びこれに基づく当裁判所の判断

一、争議に至る経過

(一)  申請人は、肩書地に本店を置き、本件物件を占有し、ミシン及びその部分品、附属品の製造加工並びに販売、輸出ミシン及び部分品の検査等を目的とする株式会社であり、全従業員は、本店、山形工場、東京出張所等の部課長等の職制を含め約五七五名を数える。

(二)  申請人の従業員で結成する労働組合は二つあり、その一は、被申請人であつて組合員数約一五〇名を数え、他は、昭和三一年四月被申請人から分裂結成されたハツピーミシン製造株式会社労働組合(以下単に第二組合という。)であつて組合員数約三四五名を数えるものである。

(三)  被申請人は、昭和四〇年度の春斗に際し、同年三月五日、申請人に対し、(1)四月から一人平均八、〇〇〇円の賃金を引き上げること、労働者の最低賃金を一六、〇〇〇円以上とすること、(2)配分は一律七〇パーセント、基本給比例三〇パーセントとすること、(3)実労働時間を七時間とすることなどの事項を含む一一項目の要求を提示し、同年三月一九日までにその回答をするよう求めた。

(四)  そこで、右要求事項に関し、申請人被申請人間において、同年三月二三日以降同年四月一九日までの間に合計一〇回に亘り団体交渉が行われたが、賃金引き上げ要求に対する申請人提示の引き上げ額及び第二基本給案を初めとし、その余の要求事項に対する申請人の回答は、いずれも被申請人の納得するところと至らなかつた。

二、争議の状況

(一)  被申請人は、右要求実現のため、前記本店並びに山形工場(本件物件と同一)において、総評の全国的なスケジユール斗争の一環として、同年三月二〇日第一回の三〇分間全面ストライキをなし、以後四月一六日までの間に四回に亘る全面時限ストライキと、同日以降同月二一日までの間に、右工場内の部品庫、部品検査、組立第一工場第二ないし第四班、製品庫及びメツキ工場等において、随時合計七回に亘る部分時限ストライキを決行した。

(二)  そこで、申請人は、同年四月二二日被申請人の右争議行為に対抗して、被申請人に対し、同日以降右山形工場の全事業場において、争議解決に至るまで無期限のロツクアウトを行うことを通告した。

(三)  第二組合は、同年四月二〇日ストライキ権を確立したが、未だ何らのストライキも行つていない。

(四)  申請人は、ロツクアウト通告後、正門(通勤用)、東門、南門(いずれも製品搬出用)及び各事業場の入口に施錠し、右鍵を保管しているため、被申請人組合員は作場道から本件物件内に出入りしている。

(五)  被申請人による中央食堂占拠の状況

(1) 被申請人は、同年四月一七日午後七時以降申請人の許可なくして中央食堂を占拠し、これを斗争本部としている。

(2) 被申請人占拠後の同年四月一九日、右食堂において、申請人主催による送別会が行われたが、それ以後再び被申請人が占拠し、事実上福利厚生施設としての利用はなされていない。

(3) 被申請人は、右食堂内にベニヤ板で二つの間仕切りを作り、その組合員の仮眠所及び会議室としてそれぞれ使用し、その余の場所を被申請人の組合集会場あるいは組合員の待機場所として使用している。

(4) 被申請人組合員は、右仮眠所に毛布、布団等を持ち込み、常時一五、六名が寝泊りし、かつ東門近くにおいて炊飯等をなしている。

(5) 同年四月二一日申請人において右食堂に通ずる電源を切つたところ、被申請人は屋外の保安用電柱から二股ソケツトとビニールコードをもつて電源用仮配線を施し、夜間、螢光灯の点灯に使用している。

(六)  被申請人による就労阻止の状況

被申請人は、同年四月二二日申請人がロツクアウトを通告した以降、常時ピケツテイングをなし、第二組合員による就労を阻止する構えを見せているが、四月二八日及び四月三〇日においては正門から、五月六日においては南門から、いずれも、就労させるため申請人職制一〇数名が施錠をはずして開門し、第二組合員を入門させようとしたところ、被申請人組合員三〇名ないし六〇名が、スクラムを組み、四列から八列横隊に立ち並ぶピケツテイングをもつて入門を阻止せんとしたため、該門附近において職制と被申請人組合員との間で二〇分ないし三五分間の揉み合いとなり、結局、人数において勝る被申請人組合員が職制を実力をもつて該門の外に押し返し、職制及び第二組合員の入門を阻止した。

右の如き状況のため、第二組合員は本件物件内に立入ることができず、従つて、同組合員による操業は全く不可能な状態となつている。

(七)  被申請人による出荷妨害の状況

申請人が本件物件内から製品、資材部品を搬出するに際し、被申請人は積荷したトラツクの運行を実力をもつて妨害している。

すなわち、

(1) 同年四月二一日資材部品を積み終つた小型トラツクの前に、被申請人組合員約二〇名がスクラムを組んで立ち並びあるいは横になつたりするピケツテイングをなし、トラツクの運行を阻止した。

(2) 同年五月二三日申請人職制三二名、外注工場の工場主及び従業員約四〇名で、トラツク六台の資材部品の搬出を行つたが、被申請人組合員は、投石したりあるいは揉み合つたりして、右搬出を妨害した。

(3) 同年六月六日申請人は下請工場などの従業員約六〇名で、トラツク三台の資材部品を搬出したが、被申請人組合員及びその他の支援団体員約七〇名は、ピケツテイングをなし、実力をもつて入門を妨害し、更に積荷したトラツクの前に、スクラムを組み座り込むなどのピケツテイングをして、右搬出を妨害した。

三、被保全権利及び保全の必要性

(一)  申請人は、被申請人に対し、本件物件に対する占有権にもとづく妨害排除請求権並びに妨害予防請求権を被保全権利として、本件仮処分申請をなしているものである。

(二)  申請の趣旨第一項について

(1) 一般の使用者は、事業場を所有又は占有して管理するものとして、ロツクアウトをすると否とに拘らず、不当労働行為を構成するような場合を除き、労働組合による事業場占拠を受忍すべき義務を負うものではない。

(2) ところで、申請人は被申請人により、前記二の(五)ないし(七)に認定の方法態様をもつて、本件物件の占有を妨害されているのであるから、立入禁止の必要性が充足される限り、申請人の右申請は理由があるものである。

そこで、進んで、立入禁止の必要性の有無につき検討するに、

前記二の(四)に認定のとおり、申請人は本件物件に通ずる各門及び各事業場に施錠してその鍵を保管しており、被申請人の占有妨害の方法態様は、前記二の(六)及び(七)に認定のとおり、申請人職制又は第二組合員の就労のための入門及び申請人職制又は申請人と商取引関係に立つ第三者の製品資材部品の搬出を阻止あるいは妨害するためにのみなされているものであつて、就労と製品等の搬出を目的としない申請人職制や守衛等の本件物件内立入りは何ら阻止、妨害されていないのであるから、全般的に観察すれば、本件物件に対する申請人の占有が全面的排他的に被申請人に移行しているものとは認められないといわなければならない。

しかしながら、就労阻止あるいは出荷妨害のため、現在被申請人によつてなされているピケツテイングの状況は後に判断するとおり、正当なものとはいえないから、これを禁止することになると、入門後事業場内で就業せんとする第二組合員等に対し、被申請人組合員が説得等の目的をもつて、事業場内に立入るであろうことが当然予測されるところであるが、事業場内に立入つて説得等をなす場合には、機械等の操作上著しい危険と支障が伴うばかりでなく、申請人の操業にも著しい支障を来たすことが明らかであると考えなければならないので、本件物件中、食堂(添付図面赤斜線部分)、便所(同図面黄斜線部分)及び手洗所(同図面青斜線部分)を除くその余の建物については、被申請人の立入りを禁止する必要性があるものというべきである。

次に、中央食堂につき必要性の有無を検討するに、

元来、食堂は福利厚生施設であつて、その本来の用途に従い利用すべきものであることは多言を要しないものであるから(本来の用途に従つて利用する以上争議中であるか否かは無関係である。)その使用につき労使間に適用される諸規約(労働協約、就業規則等)あるいは労働慣行によつて容認されていない場合においては、争議中の有無に拘らず、労働組合が、一方的に、これを斗争本部又は職場大会場等として使用することは、使用者の所有権又は占有権を侵害するものとして許されないものというべきである。

疎明資料によれば、従来、中央食堂を被申請人の職場大会場として使用することは、若干の例外を除きほとんど認められていなかつたばかりでなく、申請人被申請人間において同年三月三一日から四月一七日までの間、食堂の使用に関し、自主交渉が行われた結果、一応協定が結ばれる段階に達していたことが一応認められるので、現段階においては、被申請人による中央食堂の占拠を排除することは、主文第一項(2)の限度において必要性があるものというべきである。

申請人の操業に何ら支障を及ぼさないこと又は盗難や火災の危険性が少ないことは、被申請人の組合活動のための右食堂占拠を何ら正当化するものとはいえないし、第二組合が本件物件内に組合事務所を有し、被申請人がこれを有しないということも亦、右食堂占拠に対する正当事由とはなりえないものである。

(3) よつて、申請の趣旨第一項については、主文第一項の限度において理由があるものというべきである。

(三)  申請の趣旨第二項について

(1) 通常使用者は争議により業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、操業の権利ないし自由を喪失するものではなく、かつまた、不当労働行為を構成するような場合を除き、争議状態にない他の従業員によつて操業を継続することも許容されるべきものである。

(2) またストライキ等の争議行為を実効あらしめるためのピケツテイングは、使用者によるスト破りに対抗する場合等特段の事情のない限り、就労あるいは出入荷等に従事せんとする者に対し、言論による説得あるいは団結による示威等の方法で働きかけ、就労等をその自由意思によつて思いとどまらせることをもつてその限界と解すべきであり、その範囲を逸脱したものは違法というべきである。

(3) 就労阻止及び出荷妨害において、現在被申請人によつて行われているピケツテイングの状況は前記二、の(六)及び(七)に認定したとおりであるが、これはもはや、前示の正当なピケツテイングの限界を逸脱したものであつて、右の限界を超える行為は許されないものというべきである。従つて、被申請人がかかるピケツテイングをもつて申請人職制、第二組合員等の就労のための入門を阻止することあるいは、製品、資材部品の搬出を妨害することは、申請人が本件物件を占有して行う操業に対する不法な妨害行為であると共に、操業再開のあかつきには、実力をもつてこれを阻止あるいは妨害する意図を有しているものと一応認められ、従つて、申請人の右操業に対する不法な妨害行為のおそれも亦推認されるものといわなければならない。よつて、申請人の本件物件の占有権にもとづく妨害予防請求権は保全の必要性があるものというべきである。

被申請人は、右に関し申請人と被申請人及び第二組合との間には一方の労働組合が争議状態にあるときには他方の労働組合員を就労させないという労働慣行があること及び申請人被申請人間には争議中は出荷しないという労働慣行が存在することを主張し、申請人がこれを無視している旨主張するが、前者については、疎明資料によつてもこれを認めることはできないし、後者についても、疎明資料によれば、数回、申請人職制と被申請人間に、争議中は出荷しないとの口頭の約束がなされた事実が一応認められるが、申請人が、実質上、操業の権利ないし自由を放棄するような労働慣行を安易に作つたものとも考えられないので、それは、争議の早期解決をはかるためなされた一時的な約束にすぎないものというべく、未だ労働慣行というべきものではないといわなければならない。

(四)  申請の趣旨第三項について

申請の趣旨第三項前段の公示を求める部分については、この種仮処分の性質上、執行吏をしてその旨の公示をさせることは許されないものというべく、後段については、現段階においてはその必要性があるものとは認められない。

四、結論

以上の次第であるから、本件仮処分申請は、前示の限度で理由あるものとしてこれを認容し、その余の申請はこれを棄却することとし、申請費用の負担については、民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 上田次郎 石垣光雄 西尾幸彦)

(別紙省略)

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